コーヒーは苦手でも、コーヒーの香りは好きだという人は多い。
飲むとなると身構えてしまうのに、香りだけは不思議と受け入れられる。そこには味覚よりも先に、記憶や感情に触れる何かがある。
ジャコウネコのコーヒーの話を思い出す。
もともとは、野生のジャコウネコが完熟した実だけを選び、偶然生まれた希少なものだった。それが「価値がある」と分かった瞬間、効率化され、量産され、物語だけが残った。店頭に並ぶそれらは高価だが、どこかブロイラー的で、香りが薄い。
効率が進んだとき、真っ先に失われるのは、たいてい“香り”なのだと思う。
これは、コーヒーの話だけではない。
ブランドという色眼鏡に、私たちはいつの間にか魔法をかけられている。値段や名前が、安心や正解を保証してくれる。自分の感覚で確かめる前に、「これは良いものだ」と思わせてくれる。
けれど、本当に良いものは、そんな魔法がなくても、静かに伝わってくる。派手ではないし、説明もいらない。ただ、「これは好きだ」と自分の中で分かる。
しかし、私は実は、ブランドに弱い。
それでも、毎朝ハンドドリップで淹れるコーヒーは、スーパーで買った安い豆だ。
けれど、これがとても美味い。
今年は、
「ブランドマインドセットを捨てる」
というのを、自分のテーマにしてみようと思っている。