58/100 窮地に立つ
GMOインターネットグループの個人情報流出問題。
企業にとって、信用を根底から揺るがす重大な出来事である。
同グループの熊谷正寿社長については、これまでインタビュー記事などを通じて、その考え方や経営姿勢に触れてきた。
だからこそ、今回の問題が起きたとき、彼がこの窮地にどんな手を打つのか、とても気になっていた。
さぞ落ち込んでいるのではないか。
眠れない日々を過ごしているのではないか。
怒りや後悔、そして自責の念に苛まれているのではないか。
そんなことも想像した。
ところが、その後に打ち出された一連の対応を見て、私の頭にはまったく違う姿が思い浮かんだ。
この人は、ひょっとすると、この窮地を楽しんでいるのではないか。
もちろん、真相は分からない。
実際には、想像を絶する重圧の中にいるのかもしれない。
ただ、私の言う「楽しむ」とは、決して事態を面白がることではない。
怒りもあるだろう。後悔も、自責の念もあるだろう。
それらを乗り越えた先に、あるいは今なお胸の内に抱えながら、それでも目の前の困難に立ち向かっていく。
そこに経営者としての使命を見いだし、自らの意志で次の一手を打つ。
その姿を、私は「楽しんでいる」と感じたのだ。
そして、今日の新聞記事を読んで、今回の事件の恐ろしさを改めて感じた。
攻撃者は、単に情報を盗んで金銭を要求するだけではない。
SNSを巧みに利用し、世論を巻き込み、企業への圧力を高めていく。
いわゆる「劇場型」のサイバー攻撃である。
攻撃されているのは、システムだけではない。
企業の信用であり、顧客の安心であり、経営者の判断力そのものなのだ。
恐怖や焦りを生み出し、判断を誤らせようとする。
そう考えると、今回の事件は、経営者にとって実に厳しい試練である。
一方で、熊谷社長は自らの責任を認め、攻撃者の要求には屈しない姿勢を示し、被害者への対応や事件解明に向けて次々と手を打っている。
もちろん、その一つひとつの対応が正しかったのかどうかは、これから検証されるべきことだろう。
しかし、私が勇気づけられたのは、対応策の是非だけではない。
責任を認めることと、毅然と立ち向かうことは両立できる。
その姿勢である。
経営をしていれば、思い通りにならないことなど山ほどある。
問題が起きれば落ち込むし、悩むし、時には逃げ出したくなることだってある。
自分の判断が間違っていたのではないか。
もっと早く手を打てたのではないか。
そんな思いに囚われることもある。
しかし、問題が起きたことを嘆いていても、何も変わらない。
むしろ、そこからが経営者の出番なのだろう。
今回の事件から学ぶことは、危機に立ち向かう姿勢だけではない。
日頃から現場の小さな警告に耳を傾け、問題を先送りしないこと。
そして、いざ問題が起きたときには、誰かを責めるのではなく、自ら責任を引き受けること。
さらには、経営者の発する言葉や態度が、社員や顧客にどれほど大きな影響を与えるのかということ。
考えさせられることは多い。
私自身、日々の経営の中で、大小さまざまな問題に直面する。
もちろん、今回のGMOの問題とは規模も性質も違う。
それでも、経営者として問われる本質には、共通するものがあるように思う。
順風満帆なときに、理念や信念を語ることはできる。
しかし、本当にその人の姿勢が問われるのは、逆風の中に立たされたときなのかもしれない。
困難を楽しむとは、苦しみがないことではない。
苦しみも、責任も、すべて引き受けたうえで、それでも前に進もうとすること。
そして、その先にある可能性に、自らの意志で挑んでいくこと。
そんな姿勢なのではないかと思う。
経営者とは、こうでなければならない。
今回の熊谷社長の対応を見て、そんな思いが湧き上がってきた。
危機を防ぐ努力を尽くすことは、もちろん大前提である。
しかし、それでも起きてしまった困難に対して、そこに自分の出番を見いだせる経営者でありたい。
怒りも、後悔も、自責の念も抱えながら、それでも次の一手を考える。
できることなら、その挑戦を楽しめる自分でありたい。
熊谷社長が実際に何を思い、どのような心境でこの難局に向き合っているのかは分からない。
しかし、私にはそういう姿が思い浮かんだのだ。
経営者の器は、順風満帆なときではなく、逆風の中でこそ見えてくる。
今回の出来事を通じて、私は大きな勇気をもらった。

