実家の母から電話があった。
50年以上飼い続けている亀を、お寺に許可をいただいてお寺の池に放そうと思う。だから別れを言いに来なさい、という。
その亀は、母が嫁に来る前から家にいた。
祖父が世話をし、その後は80代になった父が世話を続けてきた亀である。
子どもの頃、祖父に「この亀はどうしたの?」と聞いたことがある。
祖父は「海で捕まえてきた」と言った。私は長い間それを信じていたが、大人になってからこの亀が淡水に住むクサガメだと知った。
それでも、50年以上も我が家にいることに変わりはない。
何度も脱走して行方不明になりながら、いつの間にか戻ってきて、毎年卵まで産む。どうやらメスらしい。
放すと聞いたとき、世話もしていないくせに寂しいなとも思ったが、しょうがないなとも感じ、そのまま床についた。
その夜、夢に祖母が出てきた。
祖母と同じ布団に寝ているのだが、祖母は額に汗をかき、苦しそうにしている。やがて空がざわめくようにカラスの群れがやってきて、満月を覆い隠したところで目が覚めた。
祖母の名前は亀恵という。
その名前のこともあってか、この亀は我が家では大事にされてきたところもあるのだと思う。
翌朝、実家へ行き、その夢の話をした。
そして、私が飼ってもいい旨を伝えた。
これからどうなるのか。
冬眠中の亀は知る由もない。