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788/1000 語り合うように書く 

788/1000 語り合うように書く 

習字を習いはじめて一年半。

やっとのことで、初段に合格した。

初段になると、小学生に教えることができるらしい。

そう聞くと立派に思えるけれど、私の実感は少し違っていた。

スタートというより、「入口に立った」という感覚だった。

やればやるほど、難しくなる。

書道とは、そういうものだった。

始めた頃は、うまく書けないことしか見えていなかった。

形が取れない。止まらない。流れない。

それが最近は、悪いところも、良いところも、少しずつ見えるようになってきた。

線の入り。

止めの甘さ。

重心のズレ。

呼吸の乱れ。

そして同時に、

「あ、今の一本は悪くない」

そう思える瞬間も、ごくたまに現れるようになっていた。

その裏には、いつも先生の言葉があった。

「そこ、急がない」

「いまの線、力が前に出すぎ」

筆を持つと、頭の中で先生の声がループする。

できない自分に何度も向き合いながら、

それでも毎回、線の置き方を示してくれた。

直すべきところも、良くなったところも、きちんと言葉にしてくれた。

根気よく指導してくれた先生には、感謝しかない。

書道には、はっきりしたルールがあった。

手本どおりに書くこと。

自分の解釈はいらない。

徹底的に真似る。

考えなくていい。表現しなくていい。

ただ目の前の一字と向き合う。

無心になれる時間だった。

けれど、漢字は不思議な存在でもあった。

音があり、意味があり、浮かぶ情景がある。

しかも一字で完結せず、隣の字と支え合って世界をつくる。

私はいつからか、良い字はパズルのピースに似ていると思うようになっていた。

凸があるから凹が活きる。

強い線があるから、弱い線が映える。

動きがあるから、静けさが立ち上がる。


ときどき思う。

手本の文字を書いた人と、語り合ってみたいと。

この一字に、どんな気持ちを込めたのか。


もしかしたら、作者と語りながら書くというのが書道なのかもしれない。