973/1000 完全数28
リビングに何気なく置かれていた一枚のベースボールシャツ。
高校生の息子が、文化祭でクラス全員と揃えて作ったものだという。
背中には「28」。
そして名前の欄には、
「江夏しか知らない」
昨年、息子は夏休みの読書感想文で『博士の愛した数式』を読んだ。
その本には、数学者である博士が愛した完全数「28」と、博士が熱狂的に応援していた江夏豊が印象的に登場する。
ベースボールシャツを作ると聞いたとき、私は何気なく、
「背番号を選べるなら、28がいいんじゃない?」
と提案してみた。
息子は最初、ぽかんとした顔をしていた。
「28は完全数で江夏。」
そう話した瞬間、息子の目がパッと輝いた。
『博士の愛した数式』で読んだあの数字と、ベースボールシャツの背番号が一本につながったのだろう。
そして実際に選んだ背番号は28。
名前には「江夏しか知らない」。
親としては、その提案を受け入れてくれたことが、とても嬉しかった。
文化祭では、クラスメイトも先生も、この組み合わせの意味に気づく人はいなかったそうだ。
でも、それでいい。
分かる人だけが分かればいい。
私にとって大切だったのは、一年前に一緒に話したことを、息子が覚えていてくれたことだった。
子育てというのは不思議なものだ。
「勉強しなさい」と言ったことよりも、本を読んで「面白いね」と語り合った時間の方が、案外心に残っているのかもしれない。
読書感想文も、感想文を書いて終わりではない。
一冊の本が親子の会話を生み、その会話が一年後、一枚のベースボールシャツという形になって帰ってきた。
リビングに置かれたそのシャツを眺めながら、そんな小さな幸せを感じた。

