スーツを仕立てるというのは、実に難しい。
無限とも思えるパターン、ちっちゃな生地サンプル、
そして、鏡の前で「これ、似合うんだろうか?」と自問自答する日々。
正直、あのサンプル生地だけで全体像を想像するのは無理な話しだ。
ついWEBで誰かの着こなしを参考にしてみるものの、
その誰かは当然ながら自分と違う。
似合うかどうか? わからない。
そう、これはもう、経験と失敗が物を言う世界かもしれない。
そんなこんなで
やっと完成した今回の一着だったが、
やはり気になって、仕立て直しを決意する。
違和感はごまかせない。
訪れたのは近所の仕立て直し店。
店先には、80代?ぐらいに見える小柄な女性が座っていた。
一瞬、「大丈夫かな…」とよぎる不安。
だが、その方が放った第一声が、
「LINE登録で10%オフになりますよ〜」
この人、只者じゃない。
そう直感した。
そして意を決して私は告げた。
「裾を15ミリ詰めて、裾幅を20ミリ細く。膝上からテーパードでお願いします」
この繊細なオーダーが伝わるのか?
と思ったのも束の間、「ああ、それなら大丈夫ですね」と、
さらりと受け取る手つきに、職人としての風格がにじんでいた。
10日後、スーツは返ってきた。
パーフェクトだった。
「なんか違う」が、「これが良かったんだ」に変わる瞬間。
たった数ミリの調整が、着る者の気持ちまで整えてくれる。
スーツって、やっぱり不思議だ。
かの凄腕の女性に、心から感謝している。