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796/1000 寡黙な職人 

796/1000 寡黙な職人 

きょうで、一大プロジェクトの工事が終わった。

詳細は、これから小出しにしていこうと思う。

この一年でいちばん寒い時期。

火の気のない工場での作業は、正直こたえただろうと思う。

吐く息は白く、金属は触るだけで体温を奪っていく。

指先の感覚が薄れていく中で、ボルトを締め、配線を通し、水平を取り続ける。

それはもう「仕事」という言葉では足りない、身体そのものの営みだ。


私はその昔、電気工事士として現場に出ていた。

だからなのか、今回工事に来てくれている電気屋さんのことが、どうしても気になってしまう。


盤の前に立つ姿勢。

腰袋の重さ。

工具を置く位置。

ブレーカーを落とす前の、ほんの一瞬の間。

言葉の端々に出てくる専門用語が、いちいち懐かしい。


そんな中に、ひとり、年配の職人さんの姿があった。

失礼とは思いながら、年齢を聞くと「七十六です」と静かに言う。


七十六。

正直、まったくそうは見えない。

背筋が伸びていて、動きに無駄がなく、若い職人たちと変わらない稼ぎっぷりだ。


脚立を押さえ、ケーブルをさばき、必要なときだけ口を開く。

「次は新潟の現場も頼みますね」

そう声をかけられても、彼は小さくうなずくだけ。


寡黙な職人。


その背中を見ながら、私は思った。

こういう人たちが、今の日本を支えているんだよな、と。


この人たちは、明日にはまたバラバラに、どこかの現場へ散っていく。

そう思ったとき、工事が終わった工場に、ふっと寂しさが漂った。