私が住む庄内の温泉街は、日本海に面している。
海が近いというのは景色としては素晴らしいが、建物にとってはなかなか過酷な環境でもある。
冬になると、海から強い風が吹きつける。
潮を含んだその風は、家の外壁や屋根を少しずつ侵食していく。
人が住んでいる家ならまだいい。
壊れたところは直され、手入れもされる。
しかし空き家になると、話は別だ。
あっという間に傷みが進む。
外壁が剥がれ、屋根の一部が飛び、風の強い日にはそれらが近所の家へ飛散する。
この地域では、空き家というのは静かに朽ちていくものではなく、
風と一緒に周囲へ広がっていく存在でもある。
では、なぜ手放さないのか。
多く聞く理由は二つある。
一つは
「仏壇があるから、たまには帰省するつもり」
もう一つは
「土地はもっと高く売れるはず」
しかし現実には、帰省することはほとんどなく、
土地の値段もバブル期の三分の一以下になっている。
それでも家は残り続ける。
不思議なことに、この町には
「住みたい」という人は少なくない。
海があり、温泉があり、静かで暮らしやすい。
この町に価値を感じてくれる人は確かにいる。
しかし、その人たちが住める家がない。
空き家はある。
けれど、住める空きがない。
私は家財整理の仕事をしているので、
空き家の相談を受けることも多い。
家というのは、建物というよりも
思い出の箱なのだと思う。
だから手放せない。
きっと、
故郷がなくなることへの不安があるのだろう。
しかし、放っておくと家は朽ちていく。
そして海風は、思い出には遠慮してくれない。
放置は最悪の決断だ。
売る、貸す、壊す、守る。
どんな選択でもいい。
ただ、何もしないまま時間だけが過ぎると、
家も、街も、ゆっくりと傷んでいく。