今日はボジョレー・ヌーヴォーの解禁日。
ワインの世界では毎年、お約束のように“独特すぎる”表現が並ぶ。「カシスのような香り」「濡れた落ち葉」「図書館の湿気を帯びた古書」なんて、詩なのか評論なのか分からない。けれど、この遊び心こそが、ボジョレーの良さでもある。
そんなことを思いながら、私は今朝もいつものようにコーヒーをハンドドリップした。始めて三ヶ月ほど経つだろうか。最初は“豆が全て”だと思っていたが、最近はどうも違う気がしてきた。むしろ、淹れ方ひとつで味は劇的に変わる。
お湯を落とすスピード、蒸らしの時間、注ぐ角度。ちょっと欲張って早く注ぐと味は薄くなるし、慎重すぎても雑味が出る。豆よりも「自分の気分と手つき」がコーヒーを左右している気すらする。
そしてコーヒーの香りの表現も、ワインに負けずにユニークだ。
「梨のような透明感」
「雨上がりの土の香り」
「鉛筆の削りかす」
もはや理科室かと思うような比喩もある。
だけど、毎朝の一杯に身を寄せていると、そんな表現がだんだん分かる気もしてくる。今日淹れたコーヒーは、とにかくスッキリしていて切れ味最高、まるで“冷えた朝に自転車で思いっきり坂道を下ってゆくような爽快感”があった。そんなことを思いながら、湯気越しに外を見る時間が、いつの間にか私の小さな楽しみになっている。
ボジョレー・ヌーヴォー実は飲んだことがない。けれど「図書館の湿気を帯びた古書」とか言われたら飲みたくなるね。