創立50年を間近に控えた事務所には、モノの垢だけでなく、データの垢も積もっている。
それは埃のようにそっと溜まっているわけではなく、時に机の角で足の小指をぶつけたような痛みを伴って存在を主張する。
定休日の事務所にこもり、昨日からその垢を落としている。
今日で終わらせるつもりだったが、どうやら明日までびっちりかかりそうだ。
半世紀の歴史を背負ったデータは、ひとすじなわでは整理できない。
情報というのは不思議なもので、活かす情報にもなれば、ただの置物にもなる。
道具と同じで、使う人によってまったく違う活き方をするからだ。
そのためには、扱う人の力量を探り、「どうなって欲しいのか」を一緒に考える必要がある。
だから書類やデータとにらめっこしているだけでは、ゴールは見えてこない。
情報のアップデートは、ただファイルを入れ替えるだけでは済まない。
それを扱う人間のマインドも変わらなければ、本当の整理はできないのだ。
いや、変わるというよりは、新しいOSをインストールする必要があると言った方がいい。
古いバージョンでは、新しいデータ形式が開けない。
効率も、速度も、そして発想も、最新の環境とは雲泥の差がある。
掃除まで手を伸ばす余裕は今日はない。
書類の山は、相変わらず机の端でこちらを見下ろしている。
「俺の番はいつだ?」と言われているようだが、それは次の定休日に回そう。
外の空は、すでに夏の夕暮れ色。
今日もまた、ひとつのフォルダを閉じて、明日こそは掃除まで…と心の中でだけ予定を立てる。