「おにぎり、温めますか?」
山形のコンビニでは、これが当たり前の会話だ。レジで聞かれると、つい「お願いします」と答える。寒い季節ならなおさら。あったかいおにぎりを片手に車に戻ると、なんだか少し報われたような気がする。
でもこのやりとり、県外ではほとんどないのだそうだ(夕食の時に家族が話していた)。
同じように、山形のガソリンスタンドでは「室内清掃用のタオル」が出てくることがある。しかも冬はほんのり温かい。これもまた、ありがたい気配り。
そして、暑い今の季節には「冷やす文化」が登場する。冷やしラーメン、冷やしシャンプー。とことん冷やす。容赦なく冷やす。でも、それは決して冷たいのではなく、「相手が求めていること」をちゃんと分かっているから。
そう。温めるも、冷やすも、その根っこにあるのは思いやりなんだ。
だからかもしれない。山形には、創業百年を超える老舗が多い。商売を続ける上でいちばん大事なのは、技術でも資本でもなく、人への気配りだ。変わるものに合わせて、変わらない心を持ち続ける。それが、山形の空気には確かにある。
たったひと言の「温めますか?」
そっと差し出されたタオル
氷で冷えた一杯の冷やしラーメン
それらはみんな、温度の話じゃない。
心の温度を感じる風景なんだと思う。