洋菓子メーカー・シベール創業者熊谷眞一氏が8日旅立たれた。シベールと言えば、ギフト用ラスクという新しいジャンルを生み出した山形を代表する企業。熊谷氏は一人で興した洋菓子店をジャスダック上場企業までに育て上げた凄腕の経営者だ。
私は、山形大学大学院で経営学を専攻していた頃、シベールがなぜこれほど成長できたのかを研究していた。そして何度も、熊谷氏のオフィスを訪ね、成功の要因を探った。
シベールの成功を一言で言えば、ビジョン経営の賜物というものになるのだと私は考える。しかし、そのビジョンが半端なものではなかった。山形市で名の知られた洋菓子店という所から、体験型のお菓子テーマパーク的構想を掲げ、これを図化していたのだ。当時夢物語としか思われなかったこの構想は数十年後現実のものとなる。これがシベールファクトリーメゾン・シベールアリーナだ。アリーナには劇場に加え親交の深かった作家故井上ひさし氏の蔵書を収めた遅筆堂文庫も併設している。
熊谷氏の外見は、カーネルサンダースを彷彿とさせる優し気なものだ。そんな氏から指導頂いたことがある。私が「なぜ、洋菓子にこだわってやってこられたのですか?」と質問をしたところ、氏は「私はこだわりという言葉は嫌いです。」と言い。続けて「今の若者はこだわりを良い言葉としてもてはやす。」「しかし、『こだわり』の本来の意味を調べてみなさい。」「こだわりには『 考え方が一つのことに縛られている』という意味があるのです。それを知りなさい 」と声を荒げて言ったのだ。
フランスパンの売れ残りをラスクにするという常識を、ラスクを作るためにフランスパンを焼きこれを贈り物のレベルまで昇華させる。「一つの考えに縛られるな」とはシベール成功の要因を全て言い表している様に感じる。
「一つの考えに縛られるな」この言葉が更に響く大変革の時代がやって来た。
熊谷氏のご冥福をこころよりお祈り致します。