4月号(最新号)の致知は、一冊丸ごと稲盛和夫特集だった。特集講話はじめ、京都大学山中伸弥氏等々、多くの著名人が稲盛氏にまつわるエピソードを寄せている。その中で、いつもの致知には顔ぶれの無い方も、氏とのエピソードを寄せていた。シンガーソングライターの長渕剛氏だ。
長渕氏は、稲盛氏と同郷鹿児島県の出身だ。全国から7万5千人が集い、伝説となった2004年の桜島ライブ。その経済効果は50億とも言われている。この桜島ライブの開催に際し故郷の為に力を貸して欲しいと稲盛氏を訪ねたのがきっかけとなり、その後も長渕氏は稲盛氏を父の様に慕っているとのことだ。
ミュージシャンにとって、何の為に歌うのか、何をエンジンに歌うのかということはとても重要な事なのだと思う。そこに共感があるから、聞き手は感動し力を頂く。稲盛氏は長渕氏に「自分、自分、自分、という生き方には限界がある。そうではなくてこの人を喜ばせたいと思った瞬間から、限界を超えていく」と教えられたそうだ。自己満では限界は越えられない。歌も、ビジネスも同じ、共感と感動なのだと気づかされる。
東日本大震災発災の一か月後、長渕氏は、航空自衛隊松島基地を訪れ、想像を絶する困難に立ち向かう隊員達千五百人を前に激励ライブを決行した。その決断をした氏だが、発災後自分が何をすべきか、まったく分からなくなっていたという。そこで空手の稽古をしながら、師範から、迷っているのならと「とりあえずスクワット千回やりませんか。やれば何か答えがでますから」と言われたのだそうだ。
そして続ける事三日。三日目に高熱を出した長渕氏。テレビを付けた瞬間「松島に行こう!」と決めたのだそうだ。
松島に行くまでも、氏は身体を極限まで鍛え続けた。それは「命懸けで闘ってる奴らん中に行くなら、腹切る覚悟で突っ込まなきゃ。これで彼らの拳が上がらなかったら、俺は終わりだ、歌い手として失格だ」と自分を追い込んでいたからだ。
この生き様に氏の魅力が凝縮されていると感じた。だから聴く人に共感感動・エネルギーを与えられるのだ。才能があるとか、カッコイイとか歌が上手いとかの次元ではない。人を喜ばせたいという想い。人間にしかできない尊い行為なのだ。