車で庄内浜の海岸線を走っていた。
窓を開けると、潮の香りがふわっと鼻をくすぐる。
その瞬間、「ああ、夏が来るな」と思った。
海開きはまだ先のはずなのに、
浜辺の空気は、もうすっかり夏の準備ができていた。
監視本部の前では、スタッフの皆さんが監視台や資材を運んでいて、
その様子にはすでに、夏の高揚感と緊張感があった。
今年も始まる。庄内の夏が。
ふと視線を海に向けると、もう海に入っている人たちがいた。
高校生くらいのグループがTシャツのまま、波に飛び込んでいる。
まだ“正式には”開いていないけれど、この暑さじゃ入りたくもなる。
夏は、誰かが「スタート」と言う前から始まっている。
そして道路では、ちょっとしたサプライズがあった。
モクズガニが1匹、トコトコと横断中。
あまりの暑さに誘われて出てきたのか
と思ったが、実はこの時期、彼らは産卵のために海へ下りてくるらしい。
モクズガニは普段、淡水〜汽水域に生息しているけれど、
夏になると、こうして海岸線の道路を横断することがあるのだという。
生き物たちは、人間の都合とは関係なく、ちゃんと自分たちのリズムで夏を始めている。
もしかすると、「開くのを待っている」のは僕たち人間のほうなのかもしれない。
海も、波も、風も、カニさえも、もうとっくにスタンバイOKだ。
今年もこの庄内浜が、何かを洗い流し、何かを始めさせてくれる気がする。
そんな夏の入り口に、車窓から少しだけ立ち会った気がした。