モノを本当に大切にするとはどういうことだろう。
新品を傷つけないように扱うとか、高い物を大事に使うことだけではない。
私がいちばん大切だと思っているのは、十分に働かせることだ。
もちろん、こき使うという意味ではない。
雑に扱って壊れるまで使い倒すこととも違う。
そのモノの良さを引き出し、役割を果たしてもらうということだ。
十分に働かせるとは、手入れをきちんとし、心を込めて大切にすること。
どこから来たのか、どんな特長があるのか。
そうした由来や良さを理解し、活かそうとする姿勢でもある。
そう考えると、たくさんのモノを持つことは難しい。
ただ所有しているだけでは、十分に働かせるところまではいかないからだ。
私自身、趣味のモノになるとつい危うい。
買ったばかりなのに、もう次は何を買おうかと考えてしまう。
これは「買う」行為が好きなだけで、手に入れる瞬間の高揚感――
いわば一種の麻薬のようなものだろう。
けれど、本当にモノを生かすとは、
オンリーワンの契りをどれだけ結べるかということではないか。
同じような物をいくつも持つのではなく、
「これ」と決めた一つとしっかり向き合うこと。
手入れをしながら、その良さを知り、働いてくれたことに感謝する。
そうやって関係が深まったモノは、
ただの道具ではなく、自分の暮らしや仕事を支えてくれる大切な存在になる。
大切にするとは、そういう向き合い方のことだと思う。